心のままに、荒野を行け 漫画家・浦沢直樹

浦沢直樹が漫画を書き出したのは5才の時、中学に入り浦沢に衝撃を与えたものが2つある。一つが手塚治虫の漫画「火の鳥」とボブディランである。手塚とボブディランの存在が浦沢に与えた影響が大きいことは、これから何度となく触れることになるでしょう。

そんな浦沢がデビューしたのが22才のとき「YAWARA」で漫画家として世に出て、いきなり3000万部のメガヒットを飛ばし、7年の連載を経て終わった。その作品は、スポーツものを書いてほしいという出版社の要望でもあった。

その時浦沢はとにかく売れなきゃあ次の漫画が書けなくなると考え、出版社側の要望にあわせた。次は自分の思い通りにと思ったが、2作目もスポーツものということでテニスを題材に「HAPPY]を書いた。

浦沢は自分のアイデンティティを示すため、2面性のある内容へと作品をシフトした。ところが浦沢自身の絵の腕がついていかず、浦沢の思いを描ききれなかったために、回を重ねるごとに売上が落ちていった。

読者からも非難ごうごうであった。しかし浦沢は慌てず、こんな時も尊敬するボブディランの孤高な生き方を胸に、自分の腕を信じて書いた。6年間で連載は終わった。実はクオリティが高いと思っていたという。

また終わった時に、傑作と思わしてやろうとがんばってきた。よくきれずにこれたと思うそのように浦沢は語る。浦沢にとっての「創作の信念」とは、ハードルを常に高く設定する。山登りと同じ苦しみの向こうに頂上がある。

浦沢にとっての頂上とは、やはり手塚治虫の「火の鳥」である。いかに近づけるかだが、たどりつけないと答える。

浦沢の描くキャラクターには、彼自身のこだわり「人間そんなに単純じゃない」だから「どうにでも見えるように書く」というのがあり、その表情を肉付けしていく。時として浦沢自身がキャラクターを演じたりしながら、自分にそのキャラクターを乗り移らせペンに伝える。

そんな浦沢を語る上で一人の男の存在を語らないとならない。その男の名は長崎尚志。その仕事は、デビュー当時から編集者としてともに歩んできた。二人のぶつかり合いのなかから、おもしろいストーリが出来上がり、浦沢漫画に仕上がっていく。

漫画を作っていくうえで最初に取組んでいく工程が「ネーム」と呼ばれるもので、この「ネーム」の出来次第で作品のよしあしが決まってしまう。それだけに浦沢としては全力を傾ける。その結果出来上がったとき、大泣きしたり嘔吐したりする。

そんな時ほど、納得のいく作品に仕上がっていくと浦沢はいう。あがき、もがき苦しみ自分との葛藤を繰り返し漫画を描いていく。納得のいく作品にしてく浦沢のこだわりである。

浦沢漫画のいつもの流れ、「ネーム」が出来上がると早速長崎にFAXする。そして長崎のチェックをうけ打ち合わせをし、実際の作業にうつる。浦沢には5人のアシスタントがおり、彼らが下絵をかく。

仕事の現場にはバックミュージックが、いうまでもなくボブディランのロックがながれる。浦沢の仕事の現場はとにかく明るいたとえ締め切りが近づいている時でも変わらない。

浦沢は「漫画」は協同作業で作り上げていくもので、自分だけのものじゃないと固く信じている、決して独りよがりの人間ではない。長崎の修正を受け入れ、手直しをする。あくまでもいい漫画にしあげるために、自分だけのものではないことをよく理解しているからである。

今年浦沢は一つの連載に終止符を打とうとしている。それは「20世紀の少年」である。あの大好きなディランの歌っている唄の題名からとった。いろんな場面で浦沢はボブディランと共に生きてきた。

困難な局面に立ったとき、読者の心が浦沢から離れていこうとしているときでもきっといつかは読者もわかってくれてついてきてくれると浦沢は強く思う。「孤高であろう」そう考える。そして「20世紀の少年」の最終章に立ち向かう。

浦沢にとっての究極の目標である手塚の「火の鳥」のような、作品をつくるために次回作に取組んでいる。

浦沢と茂木とのスタジオでのやり取りを聞いていて、浦沢は本当に「天才」と呼ばれる人なのかと思ってしまうぐらい、物静かでごく当たり前の考えを持った人であると感じた。この人浦沢も例外なく、優しい目をしておりいつまでも少年のような表情が現れていた。

浦沢も実に仕事の道具を大事にする人だ。「プロフェッショナル」に登場した多くの人がそうだったように、彼も20年使い続けている愛用のペンで漫画を描く。イメージが浦沢の右腕につたわるのだそうだ。

まさしく「プロフェッショナル」ならではの感覚的な表現である。浦沢は淡々とこう締めくくった。

締め切りがあること。その締め切りまで最善の努力をする人のことじゃないかしら。

2007年1月18日(木)午後10:00~10:44NHK「プロフェッショナル・仕事の流儀」
         心のままに、荒野を行け 漫画家・浦沢直樹

次回第39回 2007年1月25日 放送予定
がけっぷちの向こうに喝采(かっさい)がある 「指揮者・大野和士」

予告のVTRを見たが、来週が待ち遠しい!



この記事へのコメント

なるほど
2007年01月20日 09:04
浦沢さんの作品は結構よんでいます。「YAWARA」も「パイナップルアーミー」も「モンスター」も「20世紀少年」と「プルートゥ」も読んでいます。
そしてこの記事をみてかなり納得できた気がします。「20世紀少年」には浦沢さんを構築する様々な要素が凝縮されているようにも感じます。

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